2010/12/19

業界


LA のトロピカーナ・モーテルは主立ったレコード会社が、
近くにあるという便利さがある。
ジョップリン、ジム・モリソン、アリス・クーパー、
そしてトム・ウェイツが常宿にしていた。
当然ながら、
SEX&DRUGS&ロックンロール・ホテルとして悪名高き場所だった。
よっぽど性に合ったのかトム・ウェイツはこのトロピカーナの、
パーマネントの住人となる。
70年代の大半をここで過ごしている。
彼が使ったのはホテルの一室ではなく、
別棟の一戸建てのバンガローだ。
だだっぴろいワンルームに早速ピアノを置くと、
昼間はここで曲を作り。
夜になると近くのバーにくり出し、
すぐに常連になったトラベラーズ・カフェでシェリーやビールを飲った。
気の知れた仲間たちと夜が更けるまで長話し、
ほら話。
歌手志望のウェイトレスに熱心に熱い視線を投げかけていた。
不良娘を持つ銀行家の相談にのったり。
時々姿を見せる謎の未亡人の正体をめぐって、
永延と架空のストーリーをでっち上げていた。
大喜びで笑い過ごした。
いつの間にかトムの周囲にはマフィアのファミリーならぬ、
酔いどれギャングの一団がたむろするようになっていた。
モーテル暮らしの酔いどれ詩人。
彼は一世代昔、
アメリカ旋風を巻き起こしたあのビート・ジェネレーションの、
ライフ・スタイルだった。
70年代にタイム・ワープして現われたビート詩人。
アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズに。
あるいはパティ・スミスといったビートに混じって、
ニューヨークで開かれた「栄光のビート一万物語」のパーティに出店している。
途絶えようとしていたビート精神のバトンを引き継いだ。
ビートの継承者はトム・ウェイツに他ならない。
その歌を聴けばわかるように、
彼のアメリカ像は常識と道徳で窒息しそうな街を抜け出す歌。
たとえ、まわりの大人たちをいらだてさせるようなものであっても、
自分のときめきワクワクさせてくれるものなら何でもいい。
片っ端から挑戦していく。
「オン・ザ・ロード」をはじめとするケルアックの作品に心をよせた。
何かに取り付かれたように、
自分だけの栄光に向かって疾走する人々。
小説と歌という違いこそあれ、
同じ方向を向いていた。
御供

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