2010/09/29

眠れぬ夜


意識の最後の境、
肉体も精神も疲れているのに意地悪く眠れない夜。
すべてを癒す深い眠りに入ることを望む。
瞬間のうちに無数の生を生きたい。
幻のような私が私を見つめているのに、
いつまでも休めない。
私は私を見つめている。
体の中をすべての血が動き回る。
生への道のりの中に死への現実が見え隠れする。
私の精神はにがい笑いを持って私を悩ませる。
眠りたいのに眠れない夜。
私のすべてが限界に達する。
無数の神経が無言で叫び声を上げる。
命だけが呼吸する。
静けさが私をつつむ。
物音のひとつひとつが消えて行く。
夜は痛ましい緊張の中で忍び足で立ち止まる。
沈黙の中の私はただじっと体を横たえる。
しかし眠りは遠ざかるばかり、
神経は高鳴り頂点に達する。
恐ろしい長い夜をもてあそびながら生きることに弱気になる。
微笑みながら時間の無限から逃げようとしても、
追いかけられているかのように振り向くだけの私がいる。
疲れた魂の奥から朝の色が浮かび上がるとき、
様々な私の生が見える。
記憶は光と実存のカタチに満ちて頭の中を埋め尽くす。
私はすべてを失い朦朧と横たわっている。
カタチのない闇の中に挨拶する。
眠れぬ夜は朝の訪れを忘れたかのように自信を持たない。
記憶がそっと遠のき無の私があせっている。
私の心の無言は私の心にふれる。
現実の鏡の中を歩く。
眠れぬ夜、唯一の神に祈る。
かなえて欲しいとただ祈る。
数える。
静かに耳澄ましつつまわりの音に気を配る。
私がかつて生きてきた時の長い列に思いをよせる。
永遠の日々の中を通るのを見る。
甘い眠りを密かに待ちながら。
近づく記憶から私が私であることを確認する。
救いの綱につかまることにつくす。
御供 2000/7/22

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